失楽園 第1章 1節

8年前。

世界消滅の危機を天界と共に救い、新たな英雄、バーナー・ジュリアスが誕生した。

その後、人間たちの象徴として称えられ、また英雄により『天界』は存在するものだと世界中に知れ渡る。

その影響か、太古の昔に失われていた神々の恩寵と加護が天界の王である主神ゼウスによって、人間に再びもたらされる。

このまま永久の平和がもたらされるはずであった。

ある日、歴史に埋もれていた下界と天界の、史上最悪の大戦で結ばれていた休戦協定の取りやめを、天界が要求してきた。

何を今さらと誰もが思った、今となっては何故そんなことを天界が要求したのかもわからない。

それは絶望の到来を意味していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全てがパラパラとめくられるように見えた。

目の前の景色は酷く汚く、それでいて鮮明だ。

放たれた扉、踏み出す足、はためくフード。

舞う砂ぼこりが太陽によって輝き、そして北風に攫われていった。

その一瞬一瞬を確かに頭に刻み、足で大地を踏みしめた。

音が広まり、視界は速さを取り戻す。

血と硝煙の臭いが鼻をつく、次に銃声が鳴り響いた。

俺が降り立ったのは、戦場だ。

そしてここに降り立った奴らの存在理由はただ1つ。

生きるか、死ぬか、だ。

「何つったってんだ、行くぞ」

後から降りてきた奴が俺の隣を駆け抜けていく。

俺も地面を蹴りつけた。

ターゲットを絞り込む、今目の前を低空飛行している長刀の天使だ。

俺は大剣と言うには細く、また刀と言うには長く真っ直ぐな黒い剣を腰から抜き取る。

そのまま勢いつけて、敵に切りかかった。

 敵の首は宙をまい、鈍い音をたてて転がる。

「あ、あいつらだ!!戦闘態勢をとれ!」

俺は剣を振り払い血を拭う。

「『仮面』の連中だっ!!!」

戦闘開始のベルが鳴る。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は剣を腰の鞘に収める。

黒いフードを片手で払いのけるようにとり、顔につけている銀の仮面を首まで下げた。

白い息が口から漏れる。

血溜まりに浮かぶ白い羽根が沈んでいくのをただ見ていた。

「ルクス」

「…………なんだお前か」

「撤収だ、ここの天使もあらかた片付けた」

「あぁ」

俺は顔をあげる。

同じく銀の仮面をつけた男が金髪を揺らしながらこちらを見ていた。

「やはり強いな、ルクス」

「ただのパワーズ五体だろ」

「そのただのパワーズ五体は軽く一万の兵士を殺すんだぞ」

「……ジェイド」

「はいはい」

「迎え、来てるんだろうな」

「今日はしっかり手配したからな」

「……お前と組むとろくなことが無い」

「それどういう意味だ?」

「ふっ、そのままの意味だ」

「……ほら、ナイスタイミングだ」

ジェイドが指さした方を向くと、魔導式車両が砂煙をあげながら荒野を突っ切ってくる。

運転席にも、同じく仮面をつけた奴が座っている。

車は乱雑に俺達の横に止まり、勢いよく扉が開かれる。

飛び乗るように乗り込み、座席に座る。

すると扉が閉まった途端に車は走り出した。

座席に体が叩きつけられる。

「っ、おい。今日の運転誰だ……!」

「こんな雑なのはアネモスしかいないわルクス」

「トレイスじゃないか」

「久しぶりね」

懐かしい声に気分が上がる。

褐色肌に白髪の我が団自慢のアサシンだ。

トレイスは命の恩人であり、まだ戦士として若い時に戦場で助けてもらった事がある。

露出の多い服を着てはいるが、それも彼女の一つの武器であるのだから俺がどうこう言える訳ではない、だが、目のやり場に困るのも事実だ。

「前にあったのはノーランスの戦場の時だから……一年程かしら?」

「今日は何処に潜入任務してたんだ?」

「ごめんなさいね、まだ極秘なの」

彼女は口に指をあてて微笑んだ。

「それよりこれを」

前席のポケットからくしゃくしゃになった新聞を取り出した。

俺はそれを手にする。

タイトルはこうだ、『絶望終わらず』。

『本日で天界との戦争も八年目を迎える。終戦への兆しは一向に現れることはなく、むしろ激しさを増す一方である。そんな我らの唯一の救いである「仮面」と呼ばれる謎の組織の活躍がこれから鍵を握るであろう。彼らはとある小さな帝国の騎士団であるらしいが、謎が多く、情報が確かであるとは言えない。その為に信憑性のあることは一つだけだ。それは、人間の味方である、ということだ。』

俺はそこまで読んで顔を上げた。

「俺達、そういえば名前なかったなぁ」

「名前なんて決めてる暇あれば、一人でも多く天使を殺す」

「えぇ……俺は名前あった方がかっこいいとは思うけどなぁ」

「……そんなものに命を預けたいとは思わんな」

「ルクスは相変わらずクール&シャイボーイなんだから」

「シャイじゃない、俺は無口なだけで内気なわけじゃない……」

俺は指で頬をつんつんするジェイドを追い払い、新聞の続きを読む。

『だが最近とある戦場に智天使一体が出現したという情報が入った。智天使とは四枚の翼を持つ上位階級第二位の種だ、奴らは一体で能天使五十体以上の力を持つと言われているが個体差もあるので定かではない。ここ八年間、智天使以上の天使が現れた事は一度もなく、政府も対応に追われている。』

「………ケルビムだと…」

「そう、ケルビム。ついに天界は動き出してきたのよ」

「で、でもケルビムは……」

「本来なら下界に降りてくるなんてことは滅多にない、だろ」

「だけど今さら出てくるなんて、片付けるつもりなら最初から降りてくればいいじゃないか」

「ジェイド……あのな、奴らと俺らじゃ体感時間が違うんだよ。俺達からしたらもう八年、けどあっちはまだ八年だ」

俺は新聞を丁寧に畳んで、前席のポケットに再び突っ込んだ。

すると運転席から軽快な声が、なんとも響く音で豪快に口を開いた。

「お取り込み中申し訳ないが、そろそろ帝国に到着だ!」

アネモスは運転中だと言うのに、座席から身を乗り出し大きな手で俺の頭を掻き回した。

「ガキ扱いすんなよ……」

「おぉっ!?ルクスは俺から見たらガキんちょさ!」

「そうゆうことじゃなくてだな……」

「前を見なさいアネモス」

「おぉ、トレイスは相変わらず冷たいなぁ…」

アネモスは前に向き直り、ハンドルを握り直した。

それから数分しないうちに車は止まった。

おそらく帝国の大門で検問を受けているのだろう、車はすぐに動き出す。

そうこうしないうちにまた車が止まったと思うと、勢いよく扉が開いた。

「ほらよ、着いたぜ」

俺は二人共降りた後に飛び降りる。

「あぁ〜っ!腹減った!飯いこうぜルクス!」

「ちょっ……」

ジェイドに肩を組まれ、無理矢理引っ張られる。

目の前には赤レンガを基調とした建物、我が騎士団本部兼団員寮の門がすぐそこにあるというのに、ジェイドは反対方向へ歩いていく。

あちらはレストラン街だ。

俺は久しぶりにトレイスとじっくり語り合いたいのだが……。

トレイスは軽く手を振ると、スタスタと歩いて本部へ入っていった。

「さぁ、俺はあそこのカルボナーラが食べたいんだよなぁ」

「おいっジェイド……!」

俺は引っ張られるままに連れて行かれる。

休日であるからか、まだ朝だというのにレストラン街も賑わっていた。

一月半ばだけあり、人々はかなり着込んでいる。

色とりどりな人々の間を縫うように進み、一つの店へ入った。

のどかな音楽が店内を静かに流れている、外とは違う世界のようだ。

客はチラホラいるが多くはないだろう。

テーブル席に連れていかれ、どさりと座った。

俺は即立ち上がろうと机に手をつく、だがジェイドは俺の肩に手を置いた。

「俺の奢りってことでいいからさ!」

「…………金は返さんぞ」

重い腰を降ろして、メニューに手を伸ばす。

カレーやオムライス、ピザなど朝には重いものが並んでいる。

珈琲とサンドウィッチにしよう、やはり朝といったらこれだ。

俺は頼むものをジェイドに伝えてから、窓の外を見た。

冬ではあるが、太陽はさんさんと降り注いでいる。

眩しさに目を細めつつ、襲いくる眠気に思わずうとうとする。

こんな日は窓際で布団をひいて、猫のように寝たいものだ。

薄れゆく意識の中、誰かが囁いた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お〜き〜ろ〜!!!!」

懐かしい声が頭に優しく響いた。

重たい瞼を静かに持ち上げる。

そこは懐かしいベッドと、暖かな太陽と珈琲の柔らかな香りのする大好きな部屋、そしてあの笑顔がー-ー。

 

目の前には何も無かった、ただ白い空間に一人ポツンと座っていた。

代わりにいたのは空を浮かぶ少年だ。

「あれ?おにーさん、どうしたの珍しいね?」

妖しく微笑むそいつを睨みつけた。

ここはさきほどの喫茶店でも、大好きな部屋でもない。

ただの夢、精神世界だ。

こいつは八年前から居座っている、こうしてたまに俺の前に現れるのだ。

「今日はどうしたの?僕になんか用?」

「………ただ寝てただけだ」

「ほんとに〜?」

「失せろっ!!お前はただ力を貸してくれればそれでいいっ」

「も〜ぅ、寂しいなぁ〜」

少年は人形を握りしめた。

「あ、そうだ。教えてあげるよ!……近づいてきてるよ」

「……何がだ」

「上位階級第一位セラフィム

少年は楽しくてたまらないといった表情で俺を見た。

「…………馬鹿馬鹿しい」

すると視界がブラックアウトした。

良かった、これで静かに寝れる。

俺は再び目を閉じた。

 

 

「ルクスっ!!」

 はっ、と飛び上がるように目が覚めた。

「何寝てんだよ、珈琲、冷めるぞ」

「…………あぁ」

ジェイドの声が頭に響いた。

俺は髪をかき揚げ、カップの持ち手に手を伸ばす。

すると不意に、「ほら」と声が聞こえた気がして窓の外を見た。

そこには変わりない賑やかな街がある。

人々は上を見上げ、何かを指さしていた以外は。

カップがカタカタと音を立てて揺れている。

俺は思わず立ち上がった。

「……天使だ」

ジェイドも机に手を置いて立ち上がる。

黒い軍服を纏った男の天使は、軍帽のつばをつまみ顔を見えないようにしている。

フレアコートととんびコートが合体したような、ひらひらと風に揺られている。

男はゆっくり、瓦屋根につま先をついた。

群衆は皆立ち止まって彼を見ている。

その翼を見るまでは。

「さて、と。目当てのものは…………」

彼の翼は、六枚だ。

三対六枚で、二つで頭、さらに二つで脚を覆い、残りの二つで浮遊している。

俺は息が止まった。

「……上位階級第一位…セラフィム

この世界にはどうしようもないことが一つある。

世界が三つに別れていること。

朝が来れば昼が来て、夜になること。

どれも否である。

それは『死』だ。

この世界のサイクルは金でも欲でもない、生か死か、である。

俺はどうしようもない『死』の予感が足から這い上がってくるのを感じながら、仮面を手にした。

仮面を顔に付け、フードを深くかぶった。

「おい、ルクスお前……」

ジェイドが悟り、だした手は何もない空をからぶった。

「ルクス!!」

バタン、とドアを勢いよく閉めた。

外の世界はまるで時間が止まったようだ、人間たちは天使の美しさに目を惹かれ、口を開けている。

震える手で剣の柄を握りしめた。

天使は俺に気づいたのか翼を閉まった。

「お前……最近噂の『仮面』とやらか……」

「あぁ、お前らを殺すためにいる」

「そか……………騎士として、名を聞こうか」

俺は一度挑発かと思い、踏みとどまる。

俺の名前を聞いた所でなんだというのか、名乗ったからにはあちらも言うだろう、逆にこちらは情報を得られる。

こちらは仮面とフードで顔を隠している、戦場では一発でバレるが。

「ルクス=オプシオス」

刹那、たった約二秒目を離しただけで奴を見失った。

そして気がつけば身体は後方へ飛ばされていた。

轟音と同時にレンガ造りの壁に背中を叩きつけられた。

ギリギリと首を締め付けられ、足は地面スレスレを浮く。

「我らが王ゼウス……なんざ言いたくもない、馬鹿白マフラーがお似合いさ」

「お……前ッ…………!!」

「さてルクスとやら、お前さん人間じゃないな?…………いや、人間か。でもなんだこの力は……」

天使は俺を吟味するように目で舐め回すと、首から手を離した。

そしてまるでハンマーを全力で叩きつけたような蹴りが腹に飛んでくる。

再び壁に叩きつけられた俺はズルズルと壁に血のあとを作りながら、地面に手をついた。

「中に何かいるな……お前」

「……はっ…………ぐぁ、ぁ、はは、悪魔さ」

「悪魔?」

「人間は悪魔と契約したのさ、どうしても、お前らを殺したくて……殺したくてな!!」

「…………哀れだな、ルクス。悪魔と契約するということは、代償は大きいぞ」

「天使様にはわからんさ、例え哀れでも惨めでも醜くても、這いつくばってでも、叶えたい復讐があるんだよ…………お前らを殺すっていうな………」

そうだ、思い出せ。

俺の中のあいつが声をあげて笑っている。

あいつには、背中の皮をやってやった。

あの時の痛みが背筋を突き刺す。

地面に広がる血溜まりと、頬を流れる汗と涙を。

思い出せ。

あの時の地獄を思い出せ。

火の嵐が包み込んだあの日を。

俺は目の前の天使を憎しみを込めて睨みつけた。

「…………まだ、名乗っていなかったな」

やつは軍帽を脱ぎ捨てた。

「インセット=テラス。王ゼウスの命により参上仕った」

The new story open

時は『災禍の嵐』が起こった8年後。

 

英雄たるバーナー・ジュリアスは天界の戦士に召し上げられた。

 

天界の王、主神ゼウスによる恩寵は8年間人間たちに降り注いだ。

 

だが世界は神と人間による、大戦時代を迎える。

 

武力の差は圧倒的。

 

絶望の時代に突入する。

 

これは、小さな希望の話。

「妹を愛せなかった男」 〜Ⅰ〜

寒い冬の日のことであった。
窓の隙間から冷たい風が入りこみ、白く曇っている窓の外には、静かに雪が降り積もるそんな日であった。
12月17日、俺は人間の父と天使の母から、天界最強の戦闘部族、テラス家の長男として産まれた。
その2年後、9月28日には妹が産まれた。
俺は人間の血を半分以上受け継いだもの、妹は体の弱い母の血を色濃く受け継ぎ人間の血はほんの少ししかないという。
俺は人間の父より、妹は天使の母よりに、妹は体が弱いけれど俺達は元気に幸せに育った。
そんな俺達は両親の昔は凄腕の武人だった、という話が大好きであった。
父は下界で最強の剣士と謳われ、母の弓の腕の凄さといったらこの世界中で右に出るものはいないという話だ。
そんな両親に俺は憧れを抱いた。
俺は両親に1年間必死こいて武術を教えてくれと毎日頼んだ成果により、母から天界最強の戦闘部族と言われた『雷天族』の武術をみっちり叩き込まれた。ちなみに雷天族とは、大昔人間が雷を自在に操る天使を見たから、というなんともそのまんまな名前である。
だが話のとおり、俺達は雷を自らの魔力で発動することができるのだが。
そしておかげで、戦闘学習必修の天界最大の学院を特待生で入学できた。
なんて充実した幸せな生活だろうと、その時俺は思っていた。
だけれど俺は後悔する、武術を学んだことを、この家に産まれたことを、妹を恨んで、羨ましいと思ったことを、この先後悔する。
それはとりとめのないごく普通の日であったその日、人生を360度変える出来事が起こった。
俺はこの日味わった思い、光景を2度と忘れないだろう。まるでフィルムに焼きついた写真のように脳裏に張り付いて消えてはくれない、地獄の日を。
これは『俺達』の醜い残酷な、悲しい復讐劇。





革の表紙と無地の紙で作られた本を開く。
インクが入った小さな壺の蓋を開けて、羽ペンをインク壺に突っ込んで本にペンを走らせる。
1時限目は魔法学。俺が数ある授業の中でもっとも好きな授業だ。
「1時限目から魔法学かよ〜、インセットインク借りるわ〜」
おもむろに話しかけてくる隣の奴がペンをインク壺に入れる前に、インク壺の場所を素早く移動させる。
ペン先は行き場なく、机にぐさりと刺さった。
「自分のインクを使ったらどうだレイト」
「暇なんだよ魔法学……」
レイトはまだ始まって5分程なのに集中が切れたようだ、しかも手元のノートには3行くらいで終わっており黒板の量にはほど遠い。
「……また寝坊したんだろ」
「正解」
「お前もう学院の宿舎借りたほうが成績の為だぞ」
「じゃあお前も学院に泊まろ?借りよ?お前家遠いじゃ〜ん」
「馬鹿っ引っ付いてくんな鬱陶しいわ!」
そんなこんなふざけて、まぁ一方的なおふざけをしていると先生から注意をうけ、生徒から視線を感じたので俺は直ぐに静かにした。
俺は学院1000人以上の中で戦闘5位、勉学3位の順位をもつ、周りからは「優秀」という部類に入るらしい俺はそれなりに有名らしく、男子からはよく喧嘩を売られ、女子からはよくラブレターだの手作りお菓子だのを貰う。
だが、そのように毎日を過ごしていたら静かに勉強出来ない。俺はここで学ぶことが楽しみでしょうがないのにとても困る。さらに、周りに迷惑をかけてしまうだろう。
さらにもう一つ、学院中の女子に物申したい。
俺はお前らに興味はない、俺の妹の方が何万倍も可愛いわ。
お前らよりもキラキラ輝く綺麗な目とお前らより綺麗でサラサラな銀髪に白髪が混ざった美しい髪、全てが可愛い頭から足の先まで可愛い。
お前らとは何もかも違う可愛いさだ、だからお前ら学院内の女子に微塵の興味もないわ!!
なんて、ニヤニヤしているのをレイトは冷ややかな目で見ているのは触れないでおこう。
「あ、そういえばインセット。今度一緒に俺ん家で遊ぼうぜ」
「それは今、この授業中に言うことかレイト?」
「だって休み時間まで覚えてられないだろ?思いついた事はすぐ言わないと」
「別にいいが……お前ん家で何すんだよ」
俺は板書の要点だけをノートにまとめながら横目でレイトを見やる。
レイトは天界ではきっと最も有名な一族であろう。
何故なら天界の『王族三家』と言われるからである。
まず、天界は簡単に言うと選挙君主制である。
選挙君主制とは字の通り、選挙で君主を決めるのだ。
そして天界は『王族三家』と呼ばれる王族から、現王が退位した場合その年内の間に3つの王族が協力して選挙が開かれ、民はその3つの王族から君主を選ぶ、ということだ。
そして当たり前だが、天界で権力を握っているのは神であるため、王族は神である。
王族三家は、ウル家、ライラック家、シャレーヌ家だ、レイトはその中でもっとも王を輩出する王族のウル家の3人兄妹の次男である、ちなみに現王はレイトの実の父であり、この人がまた凄い方なのだ、歴史上最も最悪の大戦と言われた人間との戦、この世界は軽く4億年は存在しているがそのうちの三千年間戦い続けた戦に終止符を打ち、大戦で疲れ果てたこの世の再建を行い以前より良い世界へとさせたのだ。
俺はそんな身分の違いすぎる家で何をして遊ぶのか全く思いつきやしない。
「そうだなぁ…今度の土曜日に俺ん家で姉さんの誕生日パーティーをするんだ。どうだ一緒に」
「……パーティーか」
「家族だけで毎回やってるんだが、たまにはな?それに何故か父さんがお前を気になってて」
「レイト、良かったらなんだが」
俺は1通りノートに写したのでペンをおき、レイトの方を向く。
「妹を一緒に連れてやってもいいか?」
「もちろんだ!人数は多い方が面白いしな!それよりお前、妹いたのか」
「あぁ体が弱くて、滅多に外に出ないんだがここのところ良くなってきてな、街を見せてやりたいついでなんだが……」
「そうなのか、そりゃ立派な思い出にしてやらないとな!ゆっくり回ってから来いよ、あぁそれなら俺の城下に凄い飴屋があるんだ、そこオススメだぜ」
「そうか、そうだな。喜んでくれるかな」
「当たり前だ、なんせ始めて街を見るんだろう?そりゃ驚くさ」
「あぁ、じゃあよ。今日終わったらどこ回るか決めるの手伝ってくれよ」
「面白そうだな、いいぜ!」
それから15分は立ち、授業も終盤になったところだ。
すると、教室の扉が大きな音を立てて開かれた。
教諭札を胸元につけているので先生であろう男が息を切らせている。
きっと教室がある校舎から職員室がある校舎をおよそ2km走って来たのだろう、お疲れ様、そう他人事に思っていた。
だがなんだか嫌な予感がした。
「インセットっ!!インセット=テラスはいるか!」
「え、あぁ?…はい!インセットですが!」
予想は的中、はて俺は何かやらかしただろうか。
ここにいるとアピールするために椅子から立ち上がり手を挙げる。
すると教師は疲れているのか階段を上がってはこなく、扉のところから大声で俺に話しかけた。
だがその話はあまりに唐突すぎた。
ここから俺の人生は360度変わることになるとはまだ思いもせずに。
「お前の家がある天界最南端の森が現在人間が進行中!さらに交戦予想の区域にあり、大規模集団が向かっているとのこと!このままでは戦火に飲まれる危険性があるので生徒の身の危険を考え、今日は帰宅を禁ずる!現在その地域に住む生徒にも緊急で連絡しているので安心しろ」
俺は立ち上がったまま棒立ち状態になってしまった。
いきなり何を言っているんだこいつは。
人間?交戦?戦火?安心しろ?
俺はいきなり過ぎる情報をゆっくりと頭で整理してから落ち着いて、言葉を選んで口を開く。
「……それ…は……家族を見捨てろと…?」
「しょうがないことなのだ、交戦は長期の予想だ。一週間はかかると上が…」
教師はこめかみを押してこちらのことなど考えもせず、溜息をつく。
周りがさきほどの静寂を押し倒し、ざわめき始める。
「俺もその森に近いんだが…」「どうなるの…?」などと周りからの不安の声に、歯を食いしばる、歯が割れるんじゃないかというほどに力をこめる。
母も父も元軍人だ、父は人間だが最強と言われていたらしい、母も有名な軍人だという。
だが。
「………アモル…アモルは………?」
俺は無意識に妹の名前を口にする。
まるで暗闇の中でそれを手探りで探すように。
妹は体が弱くて、毎日ベッドから窓の外を見ていた。
持病もあり外に出たことのない妹にいつも帰ってから今日の話を聞かせるのだ。
妹は輝く目で俺の話から、外について毎日毎日考えていた。
なのに、それなのに。
「行ってこい、インセット」
「え……」
レイトに背中を思いっきり押される。
俺は反射的に後ろを向こうとするとレイトにとめられる。
「あぁいい、いい。後ろは向くな、これは貸しだぞ」
「お前に貸しとか最悪だな」
俺は少しだけ口元を見せるようにレイトにニヤリと笑ってみせ、俺は机に手をつき、足を振りあげて階段状の机、3mをひらりと飛び越えると、周りから悲鳴にも似た声が湧き上がる。
すると、先程の教師が両手を広げて俺の前に立ちはだかった。
「インセット!止まるんだ」
無表情で教師は俺は俺に警戒しながら近づいて、乱暴に腕を掴まれる。
「いいか、お前は優秀だ、可能性がたくさんあるんだ。これからお前は何だってなれる。己は大切なものだと理解し」
「反吐がでるわ」
俺は腕を振り払い、躊躇いもなく教師の顔を力をこめて殴った。
おかげで教師の言葉は最後まで発せられることなく体は後ろに吹っ飛んだ。
息をこれでもかと吸い込み、そして吐き出す。
「俺の大切なものは強さでも才能でも可能性でもなんでもねぇ!!家族が一番大切なんだよ!!」
俺は教師に吐き捨てるようにありったけ叫ぶ。
そうして大理石で作られた廊下を思いっきり蹴った。
教師は肩膝を地面をつけ、声を張り上げた。
「インセット待ちなさい!」
「すまんな先生。インセットに貸し作んの、なかなか難しいんだよ」
人差し指に凝縮させた赤い玉を先生の首元に突きつけニコリとレイトは笑った。
俺はそれを横目で確認し走り出す。
「母さん……父さん……アモル……大丈夫…きっと大丈夫…!」
俺は学院の玄関の扉を蹴っ飛ばす。
転がるようにして立ち上がり、校庭をつっきる、まれにすれ違い様に俺の名前を言われたり、ぶつかったりして謝ったりを繰り返して正門を飛び出る。
「こら!!君まだ授業の途中ではないのか!」
正門の警備員に腕を捕まれるが振りほどいて走り出す。
学院前の坂道を勢いつけ走り、レンガの地面がありったけ踏みつけ飛び上がる、肩甲骨を真ん中に寄せるように動かして、羽根をまき散らしながら翼をだす。
翼で飛ぶのは地を走るより圧倒的に速く移動できるが長時間の飛行は体力を削る。
だが今はそんなことは気にしていられない。
俺が通う学院は天界の政府ーー天界は王政なので王様が統制しているのだが、政府が直に運営する学院なので情報が軍の次に早く入ってくる。
だから民間にはかなりの時間差で情報が伝わるので、家族はきっとこの情報を知らない。
俺が知らせて、みんなで逃げないと。
妹は、家族は俺が守るんだ…!
背中の筋肉が悲鳴を上げ始めたころ、視界には見慣れた森が炎をあげて待っていた。
森入口周辺には野次馬たちがうじゃうじゃと集まりまるで蟻のようである。
「そんな馬鹿な……」
俺はショックやら疲れやらで頭がごちゃ混ぜになり、半ば強制的に翼をしまう。
おかげで建物の屋根に激突し、そのまま2m程落下し地面に強打。
俺は痛みに身悶えていると、人々が俺によってきて俺を真ん中にサークルが出来てしまった。
その中には数人顔見知りがいて、八百屋のおじさんが俺に話しかけてきた。
「お前、森んとこのガキじゃねぇか!なんだ無事で良かったなぁ!」
「っ………無事に、見えるかっ……、どう見ても痛そうだろっ…!!」
「はははっ生きてて良かったという意味だ、なんせお前んとこはうちの大事な客なんでなぁ」
「そりゃどうもっ…!」
地面に両手をつき、体をめいいっぱいの力で持ち上げる。
こんなところで油売ってる場合じゃない。
「おい!どこ行くんだ!」
俺は力を振り絞り地面を思いっきり蹴った、周りの人たちの頭上をひらりと乗り越えバランスを崩しかけたもの着地して、燃え盛る森に飛び込んだ。
熱気と盛んに飛ぶ火の粉に気圧される。
だが入ってしまえば近道を通って片道2分で着く、大丈夫、俺なら行ける、そう自己暗示をかけて走り出す。
燃える曲がりくねった道をものの数分で通り抜けると、まだ燃えてない見慣れたログハウスが待っていた。
俺は叫びたかったけれど体力の激しい消耗と息苦しいさ、熱気、そして諦めで声は出なかった。
俺はヨロヨロと階段を数段上り、木でできた手作りのドアノブにゆっくり手をかける。
きぃ、と音をたて開かれた扉の奥、リビングには2つの影。
俺はチラチラと燃える床を踏みしめた、怖くて近づけない、だけど俺は確認しなければ。
俺は母の体の側に静かに座り、母の顔に震える手を伸ばす。
「ごめんね……インセット…」
「母さんっ!」
俺は母が生きていたという事実に涙が零れた、けれど本当はわかっていたのだ。
「インセット……幸せになるのよ…?お母さんもう…貴方に触れられないけど……」
「何言ってんだよ母さん!俺はっ俺…」
母は涙をいっぱい溜めて、いつものように優しい温かいで俺の頬を撫でると、涙を愛おしいものをめでるようにふく。
「アモルは外に逃がしたわ…早く、見つけて……」
「え……?」
「貴方達を……深く、愛しています…アモル、インセット……私達の…大切な……たか、ら…もの……」
最後に額にキスをすると、何かが切れたように手は滑り、床に力なく落ちた。
「……か、母さん…母さん、母さん……母さん……かあ…」
しばらくはただ静かに泣いていた、周りはだんだんと熱くなってきて息も苦しかった。
でも動けないのだ、だって母がまだ腕の中に。
だが背後から音がした、俺は視線だけを移すがまさかそこにいたのはクラスメイトであった。
「レイト……」
「早く外でるぞインセット!!俺の力じゃ手に負えない!」
「……母さんが」
「そんなこと言ってる場合かよ!いつもの生意気なお前はどこいったんだ!?」
「黙れ!!お前にはわからないだろ!お前はこの世で一番偉い神様で!産まれた時から地位と才能があってよ!!だからわからないだろう!?俺は天使、普通の天使だ!産まれた時からあったのは小さいけど充分な幸せだ!でも、それだけだったんだよ!!それだけが……俺の生きる意味だったのにっ……!それだけあれば良かったのに!!!」
俺はレイトのマフラーを母の血で濡れた手で乱暴に掴み、引き寄せる。
「俺は何のために、何のために今まで頑張ってきたのか……もう、わからないんだよ。お前にはわからないだろうな。この、小さな幸せが、どれだけ温かくて、嬉しくて……わからないだろ……っ!」
「イ、インセット。その、俺、は……別に」
「教えてくれよ神様、俺の生きる意味を」
涙は拭かなかった、今は睨みつけるので、理性を保つのことに必死だった。
だが、レイトは俯いたままで悔しそうに唇を噛んでいた。


その後、身寄りがない俺はレイトの家に暮らすことになった。
レイトの父、ウラノスが言うには。
「大昔だ、君の母は大戦時代、親友であり、戦友であり、そして大切な相棒だった。戦争が終わった後は静かに暮らして欲しかったから連絡はしていなかった。これは俺の責任でもある、本当に申し訳なかった」
と、頭を下げられてしまったが。
そして家族の死から数ヶ月たち、夏の到来を感じる時期になった。
母は死ぬ前、妹は外に逃げたという。
だが探しても探しても見つからない。
俺にはもう、生きる意味がなかった。

「インセット、おはよ。今日も弓の鍛錬か?」
夏でも白いマフラーをしているレイトが笑顔で向こうから近寄ってきた。
俺は立ち止まってレイトの顔を真っ直ぐみる。
「あぁ、そうだが」
「たまには俺もやってみようかな〜!…なんちって!」
「いいんじゃないか」
「なぁインセット、今日の昼街に出掛けないか?」
「すまん、昼は体術の練習だ」
「じゃあ!今日夕飯食い終わったら…」
「すまんな、夜は出掛けるんだ。ウラノスさんに言っておいてくれ」
「じゃ、じゃあさ!明日の朝一緒に」
俺はレイトの隣を何事もなかったように通り過ぎる。
背後からは悔しいそうな声が漏れてるのが聞こえたが、俺は何も感じなかった。





的から20m離れた地点にインセットは弓と矢を持ちたっているのを窓から眺める。
ここ数ヶ月、インセットは落ち着いてきている。
前は部屋に篭って飯に口をつけないほど落ち込んでいたが、大分俺の家族にも慣れている。
その点は安心だ。
だが、俺とインセットの距離が日に日に離れていく気がするのだ。
インセットは笑わなくなった、たまに見せる笑顔は作り笑いで、目に隈もできている。
しかも最近はよく弓や体術、刀、槍、とにかくいろいろな武術やらを猛練習している。
インセットがインセットでなくなっていく。
まるでからくり人形みたいに、毎日毎日同じことをキチンとこなし、それを繰り返している。
会話は「そうか」「すまん」「そうだな」とか一言、一文で終わることが多い。
このままではインセットの心が死んでしまう。
どうにかしなければと行動してると。
それは事件から一年たったある日、驚きの知らせが届いた。



「君の妹が見つかった、名前はアモル、だね」
「…………それ、は」
「わかる、なんせ事件から一年だ。信じられないのも無理はない」
「…………はい」
インセットは一瞬驚きの表情をみせたもの、直ぐに無表情で冷たい顔に、目は黒く曇ってしまった。
隣で一緒にその話を聞かせれている身としては、インセットの心がまったく見えない。
「父さま、インセットの妹は何処に?」
「実は居場所を特定できただけなんだ」
机の資料を魔導投影器の上にのせると、空中に音を立てて資料拡大した物が現れる。
「ここ最近立て続けに天使の子供が攫われていた、だがある時期を堺にハタリと止まる、それがお前の妹が消えた時だ、まるで、その〜、探し物が見つかったみたいな…」
「妹が探し物だと言うのですか」
「あぁ、犯人が攫った子供の家は不規則なんだ、同じ場所だったり、はたまた何キロも離れてたり」
俺はその事実よりもインセットが反応したということに驚いただけだったのだが。
「それで、妹が消えて半日たらずで下界で子供の大集団が森で発見」
映し出された資料が写真に移り変わる。
「そしてその付近、というか手当たり次第探した、この一年な。そしたら怪しい研究所が、もう怪しいっていう希望なんだけど、やってみるしかないんだが」
「この建物に奇襲をかける」




風のない雪の中、ついにこの日がきた。
上手くいけば一年ぶりの再会である。
下界北部の寒帯の針葉樹の森の中、一本のドッシリした古い大木の枝にレイトと共に座る。
大木の枝は人が枝に対して垂直の向き、つまり縦に寝ても余裕があるほど一本一本の枝が大きいのだ。
天界にあるこれほどの木にはだいたい妖精の住処になっている、彼らは縄張り意識が高いから少し不安だがあいにくここは下界、滅多にない機会に少しワクワクした。
しかしそんな俺とは反対に、先程から隣でブツブツと聞こえる声にそろそろうんざりしてきた。
「もう、うだうだ言うなよ……」
「最悪だ、俺マフラーできねぇのかよ」
「奇襲に白は最悪だしな」
「だけどマフラーないと俺が誰だかわからないじゃないか」
「わかるから大丈夫だって」
「でも俺マフラーないと安心しないというか」
「レイト、わかったからもう静かにしてくれよ…」
木の太い枝に立ち、黒いロングコートに身を包んでいたがさらにフードを深く被る。
相棒であるコンパウンドボウと呼ばれる弓を左手で握り、右手で矢を背中の矢筒から一本取り出して、ノッキングポイントにセットする。
周りから雑音を排除するために目を瞑る。
雑音……クリア。
俺は標的をロックする。
標的は侵入経路であるドア10個の内3つの鍵を全て爆破すること。
南に2つ、120m離れた南東に1つ、ここからの距離はおよそ700m、残り時間2分と15秒で突入。
俺は弓を真っ直ぐ持ち上げ、肘と矢が一直線になるようにし今できる最大の力で弦をひく。
この矢は特注品で的に当ると起爆装置が起動し、三秒足らずで魔法陣が形成され爆発するので失敗はできない。
ありったけ10秒溜めて弦を離す、矢は俺の予想通りに飛んでいき、5秒後にはドアに音を立ててあたる。
「ビンゴ」
爆破音が聞こえ、俺は直ぐに矢をセットして今度はテンポよく一本、二本と全てをスムーズに終わらせる。
魔導式インカムを起動する、耳中心から円を描くように魔法陣が現れ常に回っていることを確認し、弓を背中にしまい代わりに短剣をだす。
「こちらインセット、3つの侵入経路確保を確認。ステップ2に移行します」
『こちら突入部隊、いつでもいけます。ウラノス様の指示を待機中…………突入許可が降りました、そちらが突入したら我々も』
「あ〜、レイト準備完了、今から派手に突入していいですか父さま」
「おいおいレイト……奇襲だっつってんだろ」
「大丈夫大丈夫、というかお前も奇襲何かより一年間分の怒りを暴れて解消したくないか?」
やりたいもんならやってやりたいが、この作戦に参加するにあたって条件がある。
人間であろうが天使だろうが妹関係なく必ず助けることだ。
条件には反しないが、それは誘拐された子供に危険がかかる可能性が…。
『レイト、派手に突入していいぞ』
「正気ですかウラノス様!?」
「マジで父さま!」
2人の声が重なり顔を見合わせる。
インカムの向こうから笑い声が聞こえた。
『インセット』
「はいウラノス様」
『ブチかましてやれ』
レイトがニヤリと不敵に笑う。
レイトは手を右手を腰に、左手に炎を出して早くしろ、と目が輝いてる。
きっとウラノス様も若い頃はこんなんだったんだろうと、安易に想像できる。
親子揃って戦闘大好きという事実に苦笑いしかないが、ここは素直に頷こう。
「本当にいいんですね?」
『あぁ、帰ったらみんなでパーティーだ』
「またですか?ウラノス様」
俺は短剣をしまい、暴れる用というか本業の体術で挑むとしよう。ズボンのポケットから黒革の手袋を取り出す。
手袋には俺の魔力分子を布の繊維に組み込むことで、俺が雷を発動しようとすると手袋の魔力が反応して手から雷が出すことができる。
「準備はいいか?相棒」
「相棒って俺に言ってんのかよ」
「俺が炎でドアをぶっ飛ばす、そのあとはまかせた」
俺は木の枝を蹴り、雪の降り積もった地面を前転して立ち上がる。
「さて、天界を敵に回したことを後悔させてやる」
「そのいきだインセット」
小走りで俺達はドアに駆け寄る、レイトに手で合図を送り、それを確認したレイトはまるで空気を撫でるようにドアの前で手をスライドさせる。
するとドアからチラチラと炎が現れたと思うとカタカタ音をたてたのち、爆発した。
俗に言う発火能力『パイロキネシス』みたいなものと理解してくれた方がいいだろう。
それも説明するとまったく違うものだが、レイトは炎を操ることに関して右に出る者はいない、そしてレイトの兄は空間を操る天才、姉は剣の天才、まったくコイツん家には天才しかいないのだろうか。
するといきなりドアの上のランプが赤く変色し、警報音が喚きはじめた。
『侵入者、侵入者、総員直ちに排除せよ』
『レベル6の被験者は部屋から出ないように』
と、同じ放送を何度も繰り返していた。
「……レベル6って何だ?」
「それも調べるか、行くぞレイト」
走って中に突入する。
上の方はもう銃撃戦に入っているのか騒々しい。
「インセット!右!右右!」
俺は右に視線を向ける前にかがんで地面に両手をつける、そのまま足を回転させて敵と思われる奴の足元を蹴る。
倒れた敵にまたがって、相手が何かを言う前に顔面に一発殴り込み気絶させた。
「その〜……お前って案外、凄いな」
「そりゃどうも」






「おいインセット、そっちにもう子供はいないか?」
「あぁいない、天使しかいないぞ。ここの研究所は一体なにを……」
「おいインセット」
レイトに肩を叩かれ後ろを向くと、『レベル6』と書かれたドアがあった。
「レベル6……」
「どうする」
「いくしかないだろ」
俺はレイトを後ろにドアノブに手をかける。
中からは音一つ聞こえない、警戒しながらもゆっくりと扉を開いた。
中はただ巨大なだけの白い部屋だった。
何もない白い部屋だったが、部屋の一番奥の右隅に黒い人影があった。
「あそこに子供たちがいる、行くぞレイト」
駆け足で子供たちに近づく、人数は4人、翼を出していないのでまだ天使かは断定出来ない。
怯える子供たちを安心させるために、片膝を地面につけて視線の高さを合わせてからなるべく笑顔で話す。
「初めまして、俺はインセット、こいつはレイト。君達を助けに来た」
「あなた………アモルのお兄さんね…?」
真ん中にいた両目を包帯で隠した女の子が立ち上がった。
まさか妹の名前が出てくるとは思わず不意をつかれた。
「アモルはここにいるのか」
「えぇ。私達はレベル6よ、ここの研究所にはレベル1から6までに子供たちを分けて何か研究してるの」
「なんでこんなところに?」
「死神が、強くしてあげると言ってきたの。ここの子は病気だったり能力が抑えられなかったりする子が多いから…」
「君達は?」
「死神は、七つの大罪と呼んでいるわ。私達罪なんて犯してないのよ?それに本当は20人数以上いたの」
「何処に行ったんだ?」
「死神に連れてかれてから誰も戻ってこないの、アモルもさっき連れてかれたわ……」
「…連れてかれた子はどうなるんだ」
女の子は一瞬口を噤んだが、右の壁を指さして震える声でいった。
「死神に殺されるの」
たっぷり10秒の沈黙が流れる。
俺は沈黙を壊すように、音をたてて走り出す。
先程指さされた場所に向かって飛び蹴りをかますと、白い壁は壊れ、白い道が現れた。
「お………けて……だ…か」
道の先から途切れ途切れに聞こえてくる声は確かに妹のものだ。
幸い道は長くなさそうだ、俺は妹に会える嬉しさと不安で自然と足が速くなる。
道が開けた先には妹がいる、俺は大きく足を踏み込んだ。
「アモルっ…………?」
「……おにぃちゃん……」
妹は目に涙をいっぱい溜めて今にも溢れそうである。
だが、だがそんなことより俺は。
「……何だよ、これ…」
妹は山と積まれた無数の死体に囲まれていた。ここは死体廃棄か?とも思ったが一瞬、思ってはいけないことが脳裏をかすめる。
妹にゆっくりと目を向ける、白いロングワンピースの裾はボロボロに破けている、傷もない、だが唯一不信な所と言えば、全身血だらけ、いや外傷はないので出血ではない、だとすると返り血である。
妹は何をしたのか、ここで何をされのか。
「…私、私じゃ、ないの……私た、助け、たくて……」
「あぁ…あぁ、大丈夫、お兄ちゃんが助けにきたから、もう大丈夫だよ」
俺は血だらけの妹を腕に抱き上げる、背中を優しく叩きながらまるで赤子があやすように。
「帰ろうアモル……」
「…うん、ごめんなさいおにぃちゃん、ごめんなさい私……お母さん…逃げたの、怖くて」
「もういいんだ、お兄ちゃんはアモルが居ればもういいんだよ……」
俺は妹に死体の山を見せぬよう顔を俺の肩につけるように押さえて後ろをむく。
どうやら、これはただの誘拐事件で済む話ではなさそうだ。
俺は妹を抱き上げながら、インカムを作動させる。
ウラノス様、妹発見しました、外傷は見られず意識もしっかりしています」
『それは良かった!じゃああとは俺の部隊に任せてレイトと一緒に帰還して構わない』
「いいのですか?まだ子供たちを全員保護していないのでは?」
『妹片手に仕事は出来ない、だろ?』
「ははは、お見通しですか」
『お前の笑い声は初めて聞く、本当に良かったなインセット』
「……えぇ、ですが帰ってから報告したいことがあります、この事件ただの誘拐事件ではなさそうです」
『……何故そう思う』
「死神がどうやら関係しているかと」
『…死神か……ここ数百年は聞かぬ名だったのだがな』
「帰ってから話しましょう、その方が落ち着きます。なんせ一年ぶりの再開ですので」
『そうだった、引き止めて悪かったなインセット』
音声は向こう側から切れた、俺はインカムをオフにする。
「おにぃちゃん…誰とお話してたの……?」
「そうだなぁ…俺達を守ってくれる強い人だ」
「お母さんとお父さんには……もう会えないの……?」
俺はどうしようもない事実に何と答えていいか戸惑う、だがここでうやむやにしてはいけない。
アモルの頭を優しく撫でながらゆっくり話す。
「……アモル、お母さんとお父さんには……もう…会えない………でもな、それはアモルのせいじゃないよ、お母さん最後に言ってたんだ、俺達を愛してるって。お父さんもきっとそうだってお母さんが言ってた」
「あいしてる……?」
「俺達が大好きってことだよ」
「アモルも、お母さんとお父さん大好き!お母さんは優しくてあったかいの!お父さんの手は大きくてねカッコイイ!それにおにぃちゃんも大好き!」
「ありがとうアモル、アモルは優しいなぁ」
「えへへっ……でも……でもね、アモルも……おにぃちゃんがいれば大丈夫だよっ、だっておにぃちゃんも悲しいのに我慢してるから……アモルも我慢するっ!1人じゃないからアモル我慢できるよ!」
「アモル……ありがとう、いい子だなぁ流石俺の妹だなぁ」
妹は目に涙をいっぱい溜めて笑顔でジタバタと足をふる。
元の広い白い部屋に戻ると、子供たちは避難したようでレイトがど真ん中であくびをしてまっていた。
「遅いぞインセットっ!おっそれが噂の妹か」
「すまんなレイト、ちなみに俺の妹に気安く近づくな」
俺はレイトが歩み寄ってくるのを片手で止める、なぜなら妹が怖がっているからだ。きっとそうだ。
「あなた、だれぇ……?」
「俺はレイト=ウル、君のお兄さんの友達だ。君を助けに来たんだ、なんせお兄さん、君を毎日探すもんだから」
「おにぃちゃん、ほんと?」
「……まぁ、うん、そうだな…」
レイトの方から「何照れてんだよ」と視線がおくられてくるのを、あくまでも笑顔で、そして声は優しく「お前、後で覚えてろよ」と伝える。

事件は解決した。
攫われた子供たちは全て天使であり、健康状態を確認してから親の元へ送り届けられた。
犯人は不明、施設も用途不明、子供たちも一体何の為に集められたのかもわからない。
でもわかったこともある。
『死神』『七つの大罪』について調べる必要がでてきた。
そして妹の件について。
妹は何故血だらけであったのか、何故両親は殺されたのか。
全て、知らなくてはならない気がするのだ。








〜死界〜

「ひー、ふー、み〜、と〜……あっちゃー!アイツらぜぇ〜んぶ持っていきやがった!」
「まぁいっか、どうせそろそろ返すつもりだったし」
「一回目は何ともつまらなかったからねぇ、あぁでもアイツを殺してやったときの顔は覚えてる覚えてる」
黒い前髪を書き上げ、けたけたと暗闇の中で笑う。
金色の目を楽しそうに輝かせながら、黒いドブに腰を降ろして足をジタバタさせている。
「アイツの顔、アモルの顔はまさにびっくり〜って感じだったなぁ、はははははっぁは!!」
「腸引っこ抜いてさぁ〜!ぶふっ、その後目の前で両手両足斬って、斬って、斬って斬ってさぁ〜」
「最っ高だったなぁ、あぁいかにも」
「怒りに満ちた顔だった、俺を殺したくてたまらない顔だった、そうそう、そうだった」
「アモル=テラスだ、そうだったぁ!!」
押さきれぬ笑みを手で覆って、暗闇の中でけたけたと笑い続ける男は、はて、何者か。
ある者は「疫病神」と。
ある者は「ただの馬鹿」だともいった。
彼はこの世界を創造した2人の内1人、この世の闇自身である。
彼はこの世全ての悪を背負う者、「アンリマユ」と呼ばれる。
またの名をーーー『死神』。


この物語は、どうしようもなく世界が創造された時から始まり。
彼のどうしようもない、ただの暇つぶしである。

「道しるべ」

「手を繋いで帰ろう」

赤く燃える空が広がり、冷たい風がふく季節になってきた。
1人寂しく家路につく。
ときおり自分の歩く影を踏みつけ、石ころを蹴りとばしながら歩く。
家は村の外れにあるのでもう少しかかるだろう。
眼下に広がる赤く染まった草原を眺めていると、ポツリと人影があった。
草が心地よい音を奏でる中、微かに聞こてきた音を聞き取った。
俺は迷わずに草原に飛び込んだ。
自分の背丈以上ある草をかき分けて人影があるであろう場所へと急ぐ。
空は紫がかってきた。
早くしないと暗くなってあたりが見えなくなってしまう。
そう、次に草をかき分けた時、人影があった。
長い黒髪が草と一緒になびいている、俺と同じくらいの背丈の女の子がいた。
俺は一呼吸おいて女の子に話しかける。
「早くしないと、日がくれちゃうよ」
女の子は後ろを向いていて、返事はない。
でも、俺はほっておけない。
俺はもう一度話しかけようとしたが、鈴のような美しい声が俺の声をかき消した。
「あなたも、あなたも同じよ」
掠れた声で吐き捨てた。
あまりよく見えないが、女の子には所々青あざがある。
俺はそれで全て理解した。
俺は吐きでそうな言葉を飲み込み、ゆっくりと、なるべく優しく返答する。
「どうして?」
「あなたもどうせ、そうだからよ」
「それじゃあ理由になってないよ」
「あなたも皆と同じよ!!」
俺は、まだ会ってまもない女の子の手を強く握った。
「違うよ」
「俺は違うよ」
俺は一呼吸おく。
「手を繋いで帰ろう」

その一言で、女の子はこちらを振り向く。
女の子の目は黒くて、暗闇でもわかるほど涙ぐんでいた。
「泣いてもいいんだよ、今君は一人じゃないだもの」
女の子は大きな黒い瞳から大きな涙をポロポロと流して、下をむいた。
「うん」
そう、嗚咽まじりの声で頷いた。






「今度やられたら俺に言ってよ!そいつらドーンっとぶっ飛ばしてやるからさ」
「ふふっありがとう、でももう大丈夫、私なんだか勇気がでたわ」
「ねぇ、あなた名前なんて言うの?」
「俺はバーナー!よろしくな!」
「よろしくって…」
「え?だってもう友達だろ?」
「……私は零よ、よろしくバーナー」

手を繋いで帰ろう。
2人一緒ならなんだって、どこだって怖くない。
手を強く握ったら、大きく振ろう、そうすればなんだって吹き飛ばせる。

手を繋いで帰ろう。
そうすれば、あいつが道を教えてくれるから。

「Bad End」

真っ白な雪が静かに降り落ち、地面に積もっていく。
鼻をさすような異臭とこびりつきそうな鉄の臭い。
もうこの世界には意味など存在せず、ただ崩壊へと向かうだけである。
おぼつかない足取りで、瓦礫の平野と成り果てたかつての愛しい世界を踏みしめ、世界の縁を目指す。
息は白く凍りつき、風は死んだように吹かず、太陽は閉ざされ、灰色の天井に覆われ、世界の最後の慈悲のように雪は優しく振り続ける。
我々はどうやら世界自身の逆鱗に触れてしまったらしい。
おかげで自分たちの世界は全てが壊れた。
おそらくもうこの荒廃した世界に自分以外は生きていないだろう。
涙もでやしない、時間の感覚だってわかりゃしない、今は何日なのか、世界が死んだのは?昨日?それとももう何年もたったのか。
ただふらふらと歩くだけ。
瓦礫を踏みしめる度に思い出が頭を過ぎる。
「あ」
目的地のようだ。
世界の縁にたどり着いたらしい。
その先はなく、崖になっているその足元を覗きこむ。

そこは永遠と闇が続いていた。
無、音もせず、色もない、ただの闇。
吸い込まれるような闇が世界の縁にはあったのだ。
馬鹿だった。
荒廃した世界に希望を探し求め、絶望に突き落とされた。
ペタリとゆっくり地面に座り込む。
震える手を抑えても、視界が滲み涙が零れおちる。
「ぁあっ………どうして…ぁああぁ…ぁあっああああああぁぁああぁっあぁあああああぁあっ」
震える声は抑えられず、溢れでた涙も声も止められなくて、泣くことしかできなかった。
「お兄ちゃぁぁんっぅあぁぁぁぁっぁゔっレイト、グラディウスっあぅ…バーナー、零、ティア、キャンディーさんっぁぁぁあっあぁっルーファスさんっライトさん、藍……みんなっ」
「みんな居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ないよっみん…なっあぁ…どこ……?どこなのぉ……」
ただ降り積もった雪に黒い染みを作っていく。
「誰かっ……誰か」











「誰か助けて」







昔むかし、あるところに、美しい世界がありました。
世界はいつもどんな時も、みんなが幸せに暮らすのを、笑顔で見ていました。
けれど、ある時1つの種が世界を争って戦争を始めてしまったのです。
争いは、他の種も乱入し大きくなっていくばかりです。
世界はそれが悲しくて、寂しくて、姿を消してしまいました。
世界には、双子の姉弟がいました。
その弟は、姉が消えてしまったことに酷く悲しみ、そして怒りました。
世界の弟は、存在する種族全てを死滅させ、ついには姉が愛した世界を暗闇に突き落としたのです。
あぁ、なんと哀れな。



「なんて、哀れな物語なのでしょうか」
そう、世界は本を閉じましたとさ。
めでたし めでたし。

「作者だって寝たい」

どうもcierです。
ようやく日々が落ち着き、休む間が出来ました。
前回、「喧嘩」という題で少し暗めのお話を書かせていただきました。
主役はアモル=テラス。
f:id:cier2525:20151019232754j:image
こんなやつです。
もう1人の登場人物はレイト=ウル。
f:id:cier2525:20151019233129j:image
こんなやつ(塗りかけ←)
とりあえず二人は10年の仲ということにはなっています。
まぁ、ただのガチ喧嘩ですよ←
作者がアモルに「あったかいなぁ」と言わせたかっただけの話なんですよ。

皆様、速報です。
作者は、なんと、このブログで、レイト主役の、小説を、再び、書き、なおし、ます!!
ワーパチパチ。
えー、私が小説を書くことになった第一の作品、レイトが現役で主役を務めていたあのころです。
それを復活させます。
わかるのはおそらく誰もいないでしょう、ですから本編を優先にして書いていきたいと思います。
よろしくお願いします!

「喧嘩」

「堕ちたな、アモル」
長年付き合いがある奴から哀れみと怒りを含んだ目を向けられた。
けど私はそれどころではない、親友を助けないと…。
「アモル」
刀をズルズルと引きずる、刀ってこんなに重かっただろうか。
引きずり跡は地面に細く伸びていく。
「アモル」
私は親友を助けないといけないのだ、だからお前なんて今構ってる場合ではない。
次の場所に……。
「アモルっ!!」
肩を力強く掴まれる。
そんなに気を取り乱して、いったいなんなんだ。
そいつは私の両肩を掴んで、目を合わせる。
黒い目からは、哀れみと怒り、希望、悲しみ、いろんな感情が感じられ、気持ち悪い。
なんだ、なんなんだ、なんで、どうして、私にそんな目を向けるのだ。
そんな目で、そんな、やめて。
「周りをみろ!!お前はっ……どうしてそんな道しか歩けないんだ!アモル!!」
周り?周りには雪しかないじゃないか。
ただ一面の雪、雪は未だ降っている。
ただ、一つ、私は、本当は分かっていたのかもしれない。
「現実をみろ!!!アモルっ!!」
そいつの声を聞いて、ふと視界が何を映す。
私は周りに目を凝らすと。




私は死体の山に立っていた。
「…………ぁ」
数十人の死体の山に立っていた。
死体に雪が降り積もり、赤く染まっていく。
鉄の臭いが辺りを充満させ、死体は無残にも切り刻まれている。
「…………ぁァ」
音が引いていく。
私が殺った。
だって、だって。

「…おかしいじゃない」
「何がおかしいんだっ……!」
「おかしいじゃない!!!」
私は肩の手をふりほどく。
それから相手の白いマフラーに、血のついた手で思いっきり掴んで、自分に引き寄せ、息を大きく吸い込む。
「おかしいじゃないっ!!どうしていつもいつも私だけ何か奪われなきゃいけないのよ!!どうしてっいつも誰かの分まで不幸になって、幸せそうな奴らをただ隅っこで指くわえて見なきゃいけないのよ!!そんなのおかしいじゃない!!」
「どうして!いつも私ばかり嫌な目にあうのよ!!どうしてっどうしてどうしてどうして!!!」
「みんなも、私みたいに、私、私の気持ちを知ればいいんだ!!痛くて、苦しくて、辛くて悲しくて寂しくて怖くて、いつも誰かに怖がってた日々を!!」
「っ………返してよ!!私の親友……返してよ!!いつもお前らの分まで不幸になってあげてたんだから、私の幸せ……返してよ!!!」
私は目に涙を溜めて、必死に睨んだ。
相手は、ただ私の目を見ていた。
沈黙が流れる。
そして、相手は息を吐くと。
「充分か」
震える声は、怒りを抑えていた。
相手は私の手を掴んだ。
「それで、充分か」
相手、レイト=ウルは、私の手をふりほどく。
「アモル、自分だけが不幸だと思いこんでんならそれは可哀想だな」
「はぁ……?」
「怖がってたのはお前が臆病だからだ、幸せそうな奴らをただ隅っこで指くわえて見なきゃいけなかったのはお前が、乗り越えて、行動しなかったからだ、お前はいつも、何かを奪われていたのは、お前の心が弱かったからだ」
「お前の不幸は自分の心の弱さだアモル、強くあろうとせず、ただ周りを巻きこむことしかしてこなかったお前の弱さだ」
「違うっ……私が弱かったんじゃない、周りが……」
「じゃあ、同情してほしいのか」
ピタリと動きを止める。
私が、同情、シて、ほしイ、?
「同情してほしいなら、してやるよ、あぁ可哀想だな、自分の弱さを認めずにただ周りのせいにするだけで、自分が不幸だなんて、そりゃ同情するわ、可哀想だなアモル」
同情、可哀想、弱い、臆病。
私の嫌いな言葉が次々と並べられていく。
レイトはそれを知っているだろう、わざと、なのだ。
だけど。
「あと、お前に俺らの分の不幸までいってるってのは、ただの勘違いだ、自分の不幸は自分で乗り越える、てめぇがただ溜めに溜めすぎて他人のものまで引き受けてる、と勘違いしてるだけだ」
レイトは静かに吐き捨てた。
所詮、お前はそんなものだと。
吐き捨てられた。
私は、俯き、音が引いていくのを感じながら、刀をレイトに向ける。
「なら、教えてくれなかった、周りだって悪い」
レイトはそんな私をみて、ため息一つつくと、白いマフラーを外して放り投げる。
「じゃあ、今教えてやるよ」
手で左目を覆うと、目の模様が消え、変わりに炎が灯される。
あの状態のレイトは、本気だ。
「お仕置きが必要だなアモル」






「はぁっはぁっはぁっ……ふっ…ぁゔ」
腕の火傷を抑える。
周りは炎がチラチラと燃え残りがある。
雪はとけ、上空には炎が私を標的に何個も浮かび上がっていた。
そのひときわ大きい炎が、私に向かってもうスピードで落ちてくる。
「セイっ!!!」
私は力を振り絞り、自身の体内で生成される雷を最大レベルまで引き上げる。
それを手から刀に流し、炎に向かって刀で切りつけ相殺する。
その反動で5mほど体が吹っ飛び、地面に叩きつけられる。
私は膝を地面につき、レイトの姿を捉える。
レイトは、それでもただ何事もないように立っていた。
黒い目が炎を反射させてひかり、瞳は私を捉えている。
無傷、私はまだ一太刀もあびせてやっていない。
私はそれがどうしようもなく怖かった。
私は殺されるのだと悟った。
だってそれはそうよ。
今まで他人のせいにして、人を殺しまくった殺人鬼が殺されるはずだったのだから。
けれど殺されることにたいしては怖くはない、生きてることが怖いのだ。
だから、ここで消えれるなら本望だ。
刀を強くにぎったまま私は朦朧とする意識のなか、目を閉じる。
重い足音が私に近づいてくる音がする。
私の目の前で音が止まる。
あぁでも、知らない奴に殺されるよりこいつに殺されるのなら悔しくないや。

「勝手に死ぬな、クソチビが」
「え」
腕が何かの、よく感じたことのある重みを受け取る。
目を開く。
「これでお互い様だな」
そういって、刀を根本まで横腹に自分で突き刺していた。
「お前っ……!ば馬鹿なのか!?」
「あぁ、嫁にも、よく言われんな~」
苦しそうに言うと口から血を吐き出す。
「だって、お前の方が痛いだろ」
「はっはぁ!?」
「お前の方が、今まで痛かっただろ」
体が引き寄せられ、レイトの胸にコツんとぶつかる。
抱きしめ……られてる……?
「確かにお前は弱い、だからお前はいつも奪われていたのかもしれない、けど」
「それを守ることができなかった……俺達も悪かった」
手が震える。
やめてくれ。
殺すならはやく。
「悪かった、ちゃんと守ってやれなくて、今まで、痛かったよな、ちゃんと守ってやってたら、レーディックを助けられたかもしれない」
「お前は弱い、だから強い俺達が、お前を守ってやんなきゃいけなかったのに、それに気づけなくて、悪かった」
刀から手が離れる。
震えがとまらない、いまさら何を。
でも、でも。
温かい、温かい。
「あったかいなぁ」
涙がぽろぽろとこぼれる。
人の体温が温かい。
いつからだろうか、誰かの体温を感じられなくなったのは。
誰にも触れられなくなったのはいつからだったか。
親友は優しかった、けれど私の気持ちを理解はしてくれなかった。
だから、温かい。
その優しい温度が、久しぶりで。
「あったかいなぁ……あったかいなぁ…」
涙がとまらないのだ。
「よしよし、今まで頑張った、だから泣いていいんだ、痛かったなぁアモル」
「うんいたかった……だれも見てくれなくて、いたかったっ」
親友は私を救ったけれど、心は見てくれなくて。
表面上では救われたけど、心を救われるのをずっと待ってた。
「もう1人じゃない」









「なぁ、お前マジで馬鹿なんじゃないか」
「死にそう、いやマジで、だから早くしろチビ」
「すいませんね、チビ、なもんでお前と身長差ありすぎて運びにくいんですぅ~、大体カッコつけて自分で刺さりに来たお前が悪い」
「何とでもいえっ…てアモルさんっ!?肘、肘が、傷にあたってますよぉっ!?」
「えっあぁ~ごっめん~気づかなかった~、なんかうるさいから無意識にやっちゃった~」
「クソッこいつマジでクソだな!!」
「黙れ白マフラー、ほら、家着いたぞ」
「あぁ、嫁に怒られんな」
「全くだ、まぁ、一緒に怒られてやらなくもないぞレイト」
ツンデレ発動すんなしクソチビ」






「何してた?そりゃまぁ」
「ガチ喧嘩、だな」
私はにこりと微笑んだ。