2018-01-01から1年間の記事一覧

失楽園 第一章 第6節

白銀の騎士は静かに佇んでいる。 腰まで伸ばした銀糸のような美しい髪をなびかせて。 だが、俺はそいつが口にした名前に、顔を白くさせることしかできなかった。 「アモル......だと......!?」 アモル=テラス、別名『銀狼』。 記録に残るは人類史最恐級事件…

母になる為に

私は八年前戦線から離脱した。 仲間達は今でも己が剣を手にきっと戦いに明け暮れているのだろう。 あの時、あの日から、『私』の時間は止まったままだ。 止まったまま薄れることなく、激しく燃ゆることもなく、ただあの時のまま今もこの片隅に黒く暗く、だけ…

失楽園 第一章 第五節

白い息をほうと口から吐き出す。 目の前で揺れる蝋燭の灯火だけが熱を放っている、すべての物は時が止まったように冷たく暗い。 先日のアルブム卿の件から数日、我が団は緊張状態が続いていた。 何時までたっても終わることない上層部の会議に皆嫌気が刺した…

「舞踏会」 『没 限定公開』

俺は皿に美しく盛り付けられた肉をフォークでぶすりと刺した。そのまま口に運び、赤ワインを一口。弦楽器や管楽器が奏でる旋律が優雅に巨大なホールを包み込む。今夜は王族主催の歴史ある舞踏会が、我がウル家の城で開催されている。俺はキャンディーことナ…

『ソレイユ』 一日目 『没 限定公開』

昔の話をしようか。 俺の昔の話を。 大した話でもないので、何か口に入れながらでも聞いてくれ。 じゃあ始めようか。 まだ希望に満ち溢れていた頃の太陽の話を。 春の優しい風が木々の間を駆ける音を、空を眺めながらただ聴いていた。 俺は森の、そこだけは…

「騎士の月」 『没 限定公開』

桜舞う春の香りが鼻をかすめた。それは一瞬のことで、すぐに現実へと急降下だ。弓をしまい、汚れ仕事がひと段落したので安堵の溜息1つ。俺は太陽が大っ嫌いだ、恥ずかしながら羨んでいる自分が嫌だ。太陽は何でもできた、みんなにも好かれた。それすら才能の…

失楽園 第一章 第四節

いつもの服に袖を通す。 何故かここ数日から夢見が妙に悪い、今日は八年前の事を思い出してしまった。 そのせいか、俺は機嫌が悪かったのだろう、会議室に向かう途中誰も近づくことは無かった。 ただ一人を除いては。 「ねえ君〜、会議室って何処に在るん?こ…

失楽園 第一章 第三節

「ねえ、覚えてる?」 青いドレスがゆらゆらと誘っている。 ベージュのカーテンの中にいる少女の顔は絶妙に見えない。 「この部屋」 少女の口が何やら言葉を続けたらしいが全く聞こえなかった。 俺はもどかしくなり一歩踏み出す。 そうして静かに首は落ちた、何…

失楽園 第一章 第二節

それは圧倒的な絶望だった。 例えるならば目の前で巨人が見下ろしているが如く、敵は高く威圧的であったのだ。 目が掠れているのはきっと出血によるものだと信じたい。 初めて抗いようのない形をした「死」にであったのだから。 「俺も暇ではない、名乗ったか…