「舞踏会」 『没 限定公開』

俺は皿に美しく盛り付けられた肉をフォークでぶすりと刺した。
そのまま口に運び、赤ワインを一口。
弦楽器や管楽器が奏でる旋律が優雅に巨大なホールを包み込む。
今夜は王族主催の歴史ある舞踏会が、我がウル家の城で開催されている。
俺はキャンディーことナイラに、髪を上げた方がカッコイイとかなんとか言われて無理矢理させられた上に、タキシードを着せられ、マフラーを取り上げられた。
要は機嫌が悪いのだ。
次々にやって来るお客、お偉いさんの挨拶をくぐり抜け一息ついているところだ。
といっても、ホールの一番目立つところの席なのだが。
隣に座るナイラが俺の両頬をぐいっと引っ張る。
「レイト君しっかりしなさい!ほら笑って!皆さんがいるのよ?」
「へっらいやら」
絶対やだ、と不機嫌そうに言う。
すると後ろからカツカツと音が聞こえ、客人かと思い慌てて立ち上がった。
だがその顔をみてさらに不機嫌になる。
アモルだ、だがアモルも不機嫌なようで刀から手を離さない。
理由は単純明快、いつもの隊服ではなくドレスを着ているということだ。
「上からお前の護衛をやれとうるさいから、しょうがないと来てみれば……」
「あら、気に入らなかったかしら?」
ナイラが笑顔で首をかしげる
まぁ、似合っていないと言えば嘘になる。
真紅のドレスは丈が短く足の露出が多い、多分動きやすいから選んだのだろう。
赤い宝石がポイントの黒いチョーカーはきっと宝石がインカムだ。
白いサラサラの髪をツインテールではなく上で1つに、これもまた赤いバラの髪留めでまとめている。
傍から見れば絶世の美女、いや少女なのだ。
こいつは歩けば花、刀を持てば蝶のようなのだ、口を開かなければの話だが。
アモルは不満そうにスカートの端をつまみあげる。
「これ用意したのキャンディーさんですか?もっと、そのー、動きやすいものはなかったのでしょうか」
「女の子がせっかくの舞踏会に可愛い格好しないなんて勿体ないわ!」
「あの、私仕事をしに来たんですけど」
アモルは俺の隣の席にどかりと座ると、ジュースに手をとった。
「おいアモル、お前が居るならシスコンもいるだろう。どこいった」
「お兄ちゃんなら、表で関係者最終確認してから来るって」
まったく、こういうのはしっかり仕事するやつだ。
アモルは周りを警戒しながら、もちろん座っていても刀は離さずに、ジュースに口をつけた。
「なぁ、毎回毎回思うんだがな?俺は自分の命ぐらい自分で守れるぞ?なんならお前らも守れるぐらいは……」
「上からは確かにお前を守れと言われたが、私はお前じゃなくキャンディーさんを守りにきてんだ。それにお前勘違いしてるぞ」
「は?」
「強い力は管理していたいのさ、上は守れ、だなんてとんでもない。お前を監視していたいんだよ、変なことしないように」
「なるほど、クソ不愉快だな」
俺は机に頬づえをつき、フォークを咥え口で遊ぶ。
すると、いそいそとメイドが後ろから話かけてきた。
「レイト様そろそろお時間にございます」
「………そうか」
俺はため息をつく、全く本当にめんどくさい。
長ったらしい話をしなくてはいけないらしいので、俺は『ゼウス』を頼ることにした。
全ての神々の父である、全知全能の天空神ゼウスの意志が宿る俺には、雷は操れはしないが人と神々双方の秩序を守る主神たるゼウスの意志、意志自体を能力とした俺の話なら誰もが聞いてくれるだろう、ということだ。
俺は意識を一点に集中させる。
周りから音、色、時間が消えていく。
ただただ静かな白黒の世界になった時、男が目の前に現れる。
ふわりと舞い降りたそいつは風もないのに、背中の赤いマントを翻して地面に足をつけた。
黄金の鎧を纏い、あの名高いアイギスの肩当をつけ、引きずるほど長い赤いマントは風もないのに揺れている。
伏せていた顔をニヤリと笑いながら上げたやつは、腕を組むと楽しげに語り出した。
「よう、我が子孫レイトよ。久しぶりよな」
「そうだなゼウス、さっそくだが聞いていた通りだ。力を貸してくれ」
「全く、全知全能の神の力をめんどうだからと使う後継者は初めてよ。だが良し」
ゼウスは歩き出すと机の上のワインボトルを手にし、ガブガブと飲み始めた。
「勝手に体を操ってはアポロンが黙ってはいまい」
ワインを片手に、何もない場所に腰をおろそうとするところに王座が現れる。
そして俺を指さした。
「久しぶりに喧嘩でもしろ、レイト」
「は?何いってんだ……」
「いやな、最近力を使わぬではないか。アポロンが暇をしておったゆえなぁ」
「それは本気を出したら死人が出るからだ」
「いいや違うなぁ」
顎を撫で、ニヤニヤと美しい美貌で俺を苛立たせる。
「お前は諦めたのだ、全てを諦めた。臆病にも誰かが傷つくのを恐れた、今まで散々邪魔者は蹴散らしてきたくせに」
「俺が………諦めた?」
「そうだ。お前は素手を使わなくなった、直接攻撃をしようとすると必ず手が震えているのに気づいているか?お前は無意識に遠距離の攻撃に、さらには威力落としているのに気づいているのか?」
「何を言って、俺は今でも……」
「お前にはもう、誰も傷つけることはできない。同時に救うこともできない。誰かを助けるということは誰かを捨てるということだ、だからお前を臆病だと、諦めたのだと言っている」