二人の守護者 『没 限定公開』

「御労しやレイト様!!」

「ぐぅッ……!」

俺は手首を魔法で拘束された状態で地面に叩きつけられた。

氷のように冷たい床が傷口を刺激する。

「記憶を失ってしまったレイト様をいい事に!下等生物である人間が!天界の王子であるレイト様を良いように使おうなどっ……!!あぁ御労しや!」

「っ……それ以上仲間を馬鹿にしてみろ!てめぇの喉焼き消すぞっ!!!」

目の前の男は周りの副官らしき男たちに指示を回した。

俺はこみ上げる殺気を抑えつけ、副官を睨みつけていた。

だがすぐに俺は絶望する。

ティアとキャンディーは副官たちに床に放り投げられた。

ティアは両足を何かで貫かれ、逃げれそうにない。

「ティア……キャンディー……」

「レイトっ!大丈夫か!?…てめぇら俺の大事な仲間に手出したら許さねぇぞ!!」

ティアは気を失っているキャンディーを庇いながらレイピアを副官に向ける。

「レイト様、どうかご安心を。我々がこやつらを始末いたしますゆえ」

男は深々と俺に一礼するとティアたちに近づいていく。

「レイト逃げろ!!」

「ふざけんなっ!お前ら置いて逃げられるか!!」

俺は肩を床につけ、よじるように起き上がる。

片足は先程手練の剣士を相手にした時、足首を駄目にした。

だがまだ片足はある。

俺はもう片方の足で地面をこれでもかと蹴りつけた、そして怪我した足を振り回し、男に向ってその足を叩きつける。

「ギャッ!」

男は気味悪い悲鳴をあげて地面に倒れ込む、俺も遅れて地面に叩きつけられたが運良くティアたちの前に落ちる。

「……っさっきから、レイト様だとか、王子だとか、意味わかんないこと、言いやがって……ぐっぅ……あぁそうだ、俺が人間じゃないことは認める……だがそれは仲間を傷つけていい理由にはならない!てめぇら無事で帰れると思うなよ」

「そのとおり。レイトが人間じゃないからなんだ、そんなのどうだっていいさ。仲間を、家族を傷つけたお前らを許すわけにはいかないなぁ」

ティアは俺の魔法の手枷をレイピアで破壊する。

「……やれるかティア」

「あぁ、俺達の力見せつけてやろうぜ相棒」

「……私も、忘れないでね」

するとキャンディーはふらふらとティアの両足に刺さるなにかに手を触れる。

「大丈夫なのかキャンディー!?」

「レイト君、足首を」

キャンディーは俺の足首に触れると、目を瞑る。

たちまち、キャンディーの手から温かい光が足首を包む。

ティアの両足も、刺さっていた何かは音を立て壊れ、光が傷口に流れ込んでいく。

「………光魔法…?」

光魔法とは、主に治療に用いられる魔法で、治療といっても擦り傷レベルの怪我を完治させるのには集中力と実力が必要で、魔法の中で最も難しいと言われる魔法だ。

みるみるうちにティアの傷口は消え、俺の足首の痛々しい青痣も綺麗に消えてしまった。

「……私はいつも、二人の背中追いかけるだけだけど、だから私は誰よりも二人を見てきた。……精一杯戦って、私がいくらでも治療してあげる」

キャンディーは強い光を宿した目で俺をまっすぐに見つめた。

俺は思わず、ここがいつもの場所だという安心感が湧いてきた。

こいつらが居れば、どんな場所でも俺はいつもの俺でいられる。

俺はいつものように、ニヤリと笑うと立ち上がる。

「ティア!行くぞ!!」

「了解!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァっ……ハァっ…………」

俺はホールらしき部屋の扉を閉めた、ズリズリと扉に背中を預ける。

あらかたの敵は倒したが、体力の問題で倒せなかった追手を巻いて、どこかもわからない部屋に慌てて入った状態だ。

ティアとキャンディーも俺ももうボロボロだ、下界に置いてきてしまった仲間は大丈夫だろうか。

俺は不安や緊張感がごちゃ混ぜになって吐きそうだ。

本当に俺は下界に帰れるのか、帰れてももう俺の居場所はーーー。

考えただけで胸がきつくしめられる。

「…………俺はいったい……誰なんだっ……!!」

何も無い大理石の床を殴りつけた。

この状況を作ったのは俺だ、下界にいる仲間たちが襲われたのも、仲間たちから不信に扱われるようになったのも、今こうして目の前で仲間が傷ついているのも。

すると、ティアがいきなり笑いを堪えていたかのように吹き出した。

「あの、能天気で喧嘩馬鹿のレイトが、珍しく悩みがあるそうだ!」

「………………おいティア、怒りを通り越して呆れるぞ、お前」

「お前らしくないって言ってんのさ」

「俺らしくもなくも、俺はどうやら俺じゃないらしいからな」

俺は吐き捨てるように笑った。

「どうせ、俺のせいだ、とか馬鹿なこと考えてるんだろう?」

「馬鹿なことだって……?お前、今ここで俺がぶっ飛ばしてやろうかっ!?」

ティアのボロボロの胸倉を掴んで自分に引き寄せた。

だが、ティアは涼しい顔して俺を見つめた。

「こんな時にやめて二人共っ!!」

キャンディーは今にも泣きそうなほど涙を溜めて俺達に向って叫ぶ。

けれど俺達はお構い無しに、拳を、剣を、振り上げた。

刹那、身震いするほどの殺気を体にあびる

俺達は一緒に飛び去り、身構えた。

扉が不気味な音をたてて開く。

黒いローブを被った何かが、何かを引きずりながら部屋に入る。

被ったフードのせいで顔は見えそうにない、俺達は数秒睨めっこした後、そいつが先に口を開いた。

「元気そうで何より」

可愛らしくも影に凛とした気配のある声がフードから聞こえる。

そいつは天界側の兵と思われる者を地面に転がした、無残にも喉を何かで斬られたうえ、右足はそこに存在していない。

「…仲間じゃないのかよっ…!!」

「………天界は弱肉強食、こいつが弱くて、私が強かったというだけの話……」

血塗れたそいつの手は腰にある柄におかれる。

「…………お前は誰だ」

「私の顔を思い出せないような奴ならば、教える義理も、生きる必要もない」

ふと風感じた、が目の前にはすでに誰もいなかった。

かわりに背後から冷たい刺すような殺気。

しまった、と後ろを振り返るが、そいつは既に音もなく抜刀していた。

だがこちらの剣士も負けていない、ティアは俺とそいつの刀の間にレイピアをすらりと入り込ませる。

刀は俺に届くことなく、レイピアによって弾かれた。

黒い剣士は弾かれた刀の威力を利用して宙に舞った。

そして音もなく、ふわりとローブをなびかせて着地する。

「…………お前、私の剣が見えたのか……」

「ん?あぁ、まぁな」

「……これから死ぬお前らではあるが、騎士として、その強さに無礼を働かせたことを詫びよう」

なんと、黒い剣士は深々と俺達に一礼した。

「まぁ、騎士とはほど遠い、ただの操られるだけの殺人マシーンではあるが、名を名乗らせてもらおう」

そいつは刀を大理石の床に突き刺した、俺は睨んでそいつを追う。

ローブの紐をするりと解くと、はらりと床に落ちた。

「私はアモル、レイト第三皇子の暗殺の命をうけ参上した……その命貰いうける」

銀髪とも白髪とも言える髪を二つにまとめた赤目の女の子だ。

何故か右顔を黒い布で隠している、勿体ない、せっかくの美人なのに。

だがアモルという名は聞き覚えがある。

だが霧を掴もうとするかのように、近づいては消えていく。

なんとももどかしく、俺は顔を歪めた。

けれども確信できることがある。

前のアモルというやつは、多分こんな奴ではなかった気がする。

こんな、冷たい目はしていなかったはずだ。

もっと笑顔ある明るい女の子であった気がしてならないのだ。

「ねぇアモルさん」

するとキャンディーは床から立ち上がって、女の子に問いかけた。

「なぜレイト君は記憶がないの?」

「……知らない、そいつが…」

「でも貴方はレイト君を知っているような口ぶりだったわ」

「………………」

「レイト君が私達のところへやって来たのは五年前、何か関係があるのでしょう?」

女の子は完全に口を閉ざした。

まるで、そうです、と言わんばかりに目を逸らした。

「お前らに話を聞く資格などない。特にレイト、貴様は死を持って償え」

アモルは刀を構えた。

するとティアはレイピアを握りしめ、俺の前へ一歩大きく踏み出した。

心なしかレイピアはカタカタと震えている。

「剣士が相手なら俺がやるべきだろう?相棒」

「なっ……馬鹿野郎!俺もっ……!!」

俺はティアの横顔を見て、ピタリと言おうとしたことを止めた。

そう、こういう時に言う言葉は違うだろう?

俺は握りしめた拳を緩めた。

「……あぁ、信じてるぜ。相棒………生きろよ」

「極めて了解」

ティアはレイピアを構える。

二人の剣士は互いに睨み合う。

始まりは一瞬だった、アモルが右足を踏み出したと思ったら既にティアの頭上で刀を振り上げていた。

ティアはレイピアを盾にし、降り注いだ重い一撃を火花を散らしながら受け流した。

あの白く細い腕のどこからあんな一撃をだせるのか。

アモルの攻撃は止まらない、二人の火花散る攻防戦をただ見ていた。

だが相手の剣士は相当の手練だと、俺が見ただけでもわかる。

刀が弾かれた威力を利用し飛躍したり、流された刀がすぐに動き、次の一手を体が覚えているかのような動き。

一撃一撃の重さ、滑らかに滑るように繋がる一手、なんとも強く美しい剣だ。

それを、あんな小さな可愛らしい女の子がやっているのだ。

ティアもそれに気づいていた。

それと同時に攻防戦の勝敗も気づいていた。

刹那、ティアが刀による攻撃を流しけれずに、なんと壁まで飛ばされた。

鈍い音を立ててぶつかる、細い呻き声が空に消えた。

俺達はそれをただ口を開いて見ていた。

「…………所詮は人間、か」

アモルは刀を、まるで付着した血をはらうようにし、鞘に収めた。

「私は待った」

ブーツで大理石を強く踏みしめた。

「四年も待ったっ……!!」

感情的になるそいつは、俺のマフラーを掴み、引き寄せた。

キャンディーは手を震わせ、口をぱくぱくさせながら目を涙でいっぱいにしている。

「忘れたとは言わせないぞっ!!!??」

俺は締められる首から情けない嗚咽を漏らす。

抵抗しようと手をあげた、炎をともそうと力を込めた、ができなかった。

できなかった、今ここで俺が手をあげたら、きっと俺は俺を許せない。

俺の中の知らない誰かが、「やめろ」と必死に叫ぶ声がしきりに聞こえる。

向こうでティアが、体を動かそうと地面を這っている。

 

お前は誰だ。

俺は一体誰なんだ。

お前は、俺を知っているだろう。

 

「私の、私のお兄ちゃんは、インセット=テラスは、どうなったっ!!!!」

「………………イン、セット…………?」

聞いたことある、その名前を俺は知っている。

霧が晴れる、蓋が外れる音がする。

そう、あの日を、俺は知っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ、走れレイト!!!」

 瓦礫が崩れる音。

「わかってらぁ!!」

 炎が地面を這う気配。

「お前が父様をやったのかっ!?」

視界をちらつくニヤニヤとした顔。

「レイトっ!!クソッお前何者だ!」

遠ざかる声。

「…………ろ…翼…………ひろ……」

しきりに叫ぶ声。頬を叩く風。

「く……もう…………下界…………レイ…」

霞む視界。

「翼を広げろっレイト!!!!」 

声が聞こえたと思った、だがすぐに遠ざかる。

身体が勢いよく何かにぶつかる、ボコボコと泡に包み込まれる、身体が重くて、息ができなくて、冷たくて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギリギリと首を締めつける苦しさに我に帰った。

「アっ……モ、ル…………やめ……」

こんな小さな女の子を何故忘れられていたか。

細い腕で俺を押さえつけ、赤い瞳は涙でいっぱいだ。

こんな、泣き虫で優しい女の子を、俺が傷つけられるはずがない。

俺は震える手をアモルの手にそえた。

「ぁっか………はっ……な、き…虫なのは………かわら、ない…なっ……」

アモルは目を大きく開いた、涙がポロポロとこぼれる。

「すまっ……んな……」

「っ…………いまさらっ遅いよ……」

アモルは力を弱めた、俺はその隙に蹴り飛ばし脱出する。

「……あぁ、思い出したよ。自分が何者で、あの日あの時、何があったのかもな。でもな」

俺は拳に力をこめる。

「それを理由に仲間を、見捨てるわけにはいかないんだよ……!」

「あぁそうか…………お前は、人間の味方をするのか……」

俯いたアモルがボソリと呟いた。

 「違うっ!!人間とか人間じゃないとか関係ない、俺は俺の守りたいものを守るだけのことだ」

アモルはぬらりと地面から立つ。

でも何だろうか、アモルの影が動いているような、影の中に何かいるような。

「レイトっ!!!!」

何か鋭い何かが俺の隣を通り過ぎ、壁に突き刺さった。

ティアがとっさに投げたレイピアだ。

その剣先には生き物とは言えないなにかが、形はまるで手のような物体が激しくもがいてる。