それは太陽だった。 だがある日を境にそれは下界へと突き落とされてしまう。 不幸なことにそれは己が何者かを忘れ、挙げ句に人間と恋にまで落ちた。 そこで太陽は優しさを知った、愛を知った。 そしてそれは長い時を過ごした、それはそれは楽しい時であった…
白銀の騎士は静かに佇んでいる。 腰まで伸ばした銀糸のような美しい髪をなびかせて。 だが、俺はそいつが口にした名前に、顔を白くさせることしかできなかった。 「アモル......だと......!?」 アモル=テラス、別名『銀狼』。 記録に残るは人類史最恐級事件…
私は八年前戦線から離脱した。 仲間達は今でも己が剣を手にきっと戦いに明け暮れているのだろう。 あの時、あの日から、『私』の時間は止まったままだ。 止まったまま薄れることなく、激しく燃ゆることもなく、ただあの時のまま今もこの片隅に黒く暗く、だけ…
白い息をほうと口から吐き出す。 目の前で揺れる蝋燭の灯火だけが熱を放っている、すべての物は時が止まったように冷たく暗い。 先日のアルブム卿の件から数日、我が団は緊張状態が続いていた。 何時までたっても終わることない上層部の会議に皆嫌気が刺した…
俺は皿に美しく盛り付けられた肉をフォークでぶすりと刺した。そのまま口に運び、赤ワインを一口。弦楽器や管楽器が奏でる旋律が優雅に巨大なホールを包み込む。今夜は王族主催の歴史ある舞踏会が、我がウル家の城で開催されている。俺はキャンディーことナ…
昔の話をしようか。 俺の昔の話を。 大した話でもないので、何か口に入れながらでも聞いてくれ。 じゃあ始めようか。 まだ希望に満ち溢れていた頃の太陽の話を。 春の優しい風が木々の間を駆ける音を、空を眺めながらただ聴いていた。 俺は森の、そこだけは…
桜舞う春の香りが鼻をかすめた。それは一瞬のことで、すぐに現実へと急降下だ。弓をしまい、汚れ仕事がひと段落したので安堵の溜息1つ。俺は太陽が大っ嫌いだ、恥ずかしながら羨んでいる自分が嫌だ。太陽は何でもできた、みんなにも好かれた。それすら才能の…
いつもの服に袖を通す。 何故かここ数日から夢見が妙に悪い、今日は八年前の事を思い出してしまった。 そのせいか、俺は機嫌が悪かったのだろう、会議室に向かう途中誰も近づくことは無かった。 ただ一人を除いては。 「ねえ君〜、会議室って何処に在るん?こ…
「ねえ、覚えてる?」 青いドレスがゆらゆらと誘っている。 ベージュのカーテンの中にいる少女の顔は絶妙に見えない。 「この部屋」 少女の口が何やら言葉を続けたらしいが全く聞こえなかった。 俺はもどかしくなり一歩踏み出す。 そうして静かに首は落ちた、何…
それは圧倒的な絶望だった。 例えるならば目の前で巨人が見下ろしているが如く、敵は高く威圧的であったのだ。 目が掠れているのはきっと出血によるものだと信じたい。 初めて抗いようのない形をした「死」にであったのだから。 「俺も暇ではない、名乗ったか…
少女は嘆いた。 あの時、しっかりとその手を掴んでいればよかったと、今更後悔した。 激しい雨が己を打ち付けたが、想いは流してくれなかった。 少女は親友の、いや自分の為にただ走った。 自分の数少ない願いだ、優先させて悪いなど、彼女と親しい者は言わ…
少年は言った。 空に惹かれる、何故かあの青い空が懐かしい、と。 白い少年は、なんとも悲しげな表情で掴めるはずもない雲を握りしめた。 なんでそんなこというんだ、と問えば。 自分が今ここに居なければ、『家族』を護れただろうに、と笑った。 どこまでも…
昔々の大昔、何も無かった場所に白く輝く少女が産まれました。 と、同時にどこまでも深い、黒い少年が産まれました。 二人はとても仲が良く、いつも一緒にいました。 だけど二人は、二人だけでは寂しくて、世界を作りました。 次に自分たちと同等の神を、二…
彼女は向日葵が良く似合う、笑顔が可愛らしい人だった。 「…………や…だ」 怒った顔はとても怖くて。 「どう…………彼……」 焦る姿は、ちょっと可愛い。 「……目を……」 全部、覚えてる。 「おに…………ら……ない」 初めて出会った雨の降った寒い冬も。 「いか…………で」 花を数えた優…
8年前。 世界消滅の危機を天界と共に救い、新たな英雄、バーナー・ジュリアスが誕生した。 その後、人間たちの象徴として称えられ、また英雄により『天界』は存在するものだと世界中に知れ渡る。 その影響か、太古の昔に失われていた神々の恩寵と加護が天界…
時は『災禍の嵐』が起こった8年後。 英雄たるバーナー・ジュリアスは天界の戦士に召し上げられた。 天界の王、主神ゼウスによる恩寵は8年間人間たちに降り注いだ。 だが世界は神と人間による、大戦時代を迎える。 武力の差は圧倒的。 絶望の時代に突入する。…
寒い冬の日のことであった。窓の隙間から冷たい風が入りこみ、白く曇っている窓の外には、静かに雪が降り積もるそんな日であった。12月17日、俺は人間の父と天使の母から、天界最強の戦闘部族、テラス家の長男として産まれた。その2年後、9月28日には妹が産…
「手を繋いで帰ろう」赤く燃える空が広がり、冷たい風がふく季節になってきた。1人寂しく家路につく。ときおり自分の歩く影を踏みつけ、石ころを蹴りとばしながら歩く。家は村の外れにあるのでもう少しかかるだろう。眼下に広がる赤く染まった草原を眺めている…
真っ白な雪が静かに降り落ち、地面に積もっていく。鼻をさすような異臭とこびりつきそうな鉄の臭い。もうこの世界には意味など存在せず、ただ崩壊へと向かうだけである。おぼつかない足取りで、瓦礫の平野と成り果てたかつての愛しい世界を踏みしめ、世界の…
どうもcierです。ようやく日々が落ち着き、休む間が出来ました。前回、「喧嘩」という題で少し暗めのお話を書かせていただきました。主役はアモル=テラス。こんなやつです。もう1人の登場人物はレイト=ウル。こんなやつ(塗りかけ←)とりあえず二人は10年の仲…
「堕ちたな、アモル」長年付き合いがある奴から哀れみと怒りを含んだ目を向けられた。けど私はそれどころではない、親友を助けないと…。「アモル」刀をズルズルと引きずる、刀ってこんなに重かっただろうか。引きずり跡は地面に細く伸びていく。「アモル」私は親友…
はい、ここは短編集っす。現在夜中?朝?とりあえず、午前4時。ふとcierは考える。本編がまだ公開されてないから~自分の好きな話書けないな~。と、それは嫌だ!そうして唐突に昔使っていたはてなブログを掘り起こし、今まで記事を消すのも惜しいので…。作…